私の言う、能に使われる「あれ」とはなんでしょう?

“『現在七面』の楽屋で、十三代目佐々野三郎左衛門が死んでいるのが見つかったのは、その日最後の舞台が終わったあとだった。
三郎左衛門はイスにもたれかかるように死んでいた。足元には割れた湯飲み、そしてこぼれたお茶。
司法解剖の結果は毒による中毒死だったが、即効性の毒ではなく、遅効性の毒だった。そして、割れた茶碗にもこぼれたお茶にもその毒は入ってなかった。

「三郎左衛門さんを恨んでいた人、死ぬと得する人を中心に洗い出ししているんですがね……まあ、これがいることいること」
溜息をつきながら荒井刑事はお茶を飲んだ。
「ああいう伝統的かつ閉鎖的な世界にいるといろいろ怨みも妬みも買うでしょうね……」
私は同情した。
「さっぱりわからないのは、毒をどうやって飲ませたかです」
「ほう?」
「三郎左衛門さんは公演がある日は昼食を取らないのだそうです。集中力を欠くとかで。ですから、公演前には水くらいしか口にしていないんですが……もちろん水からも毒は検出されませんでした」
「ふうん……」

私は荒井刑事が持ってきた能公演のパンフレットに目を通した。
今回の公演の一番の目玉は『現在七面』のひとり七役早変わりだった。ひとりで能面を付け替え、七つの役を素早く変えて演目を演じるのである。まさに佐々野三郎左衛門ひとり舞台といった演目だった。
「なるほどね。だいたいわかりました。あれは調べてみましたか? あれなら、三郎左衛門さんに毒を飲ませることができます」
「えっ? そ、それは?」
「あれに毒を仕込めたとなると、それが出来る人間もかなり限られてくるでしょう。犯人があれを処分する前に、すぐに証拠として押さえてください」”

↑私の言う、能に使われる「あれ」とはなんでしょう?
ヒント1を見る▼
被害者の口に触れるもの、水以外に何かありませんか?
これでもまだわからないですか・・・?
答えと解説を見る▼
能面

解説

能面の口の所に毒を塗れば、被害者に毒を飲ませることができます。特に早変わりの面は、口で面裏の「咥え」を咥えて支えることも多いので、ここに塗れば確実です。
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