“事件現場にはしっかりとタイヤの跡が残っていた。だから容疑者を見つけ出すのは簡単だと思われた。 だがいざ見つかった人物は鉄壁のアリバイを持っていた。その時間、警察で捜査をしていた……遠藤警部その人だったのだ。 […]

“「大丈夫だ、これだけたくさんで見張っていれば、犯人が遠坂氏に近づくチャンスなど……」 遠藤警部がそう言ったとき、楽屋の中からなにかが割れるような音と、女性の悲鳴が聞こえた。 「きゃあああ～～～っ！　と、遠坂 […]

“数日前、東和高エネルギー研究所に産業スパイが入り込んで、機密を盗もうとした。だが警備装置が働いて、未然に防ぐことが出来た。 警備担当の森脇氏からの依頼は、もう一度機密を盗み出される前に、私にスパイを捕まえて […]

“少女が死んだ。１０階建てマンションの屋上から落下して。下はコンクリートの地面で、即死だったと思われる。 問題は、彼女が自殺なのか事故なのか殺人なのか、わからないと言うことである。 屋上にはスマホと学生カバン […]

“その日の午後１時過ぎ、石塚氏から、友人の資産家細田氏に何かあったようだとの連絡を受け、警察は石塚氏と共に細田氏の邸宅に向かった。 細田氏の家の扉は閉じられており、呼び出しにも反応がなかった。警察が細田氏の家 […]

“仙台のホテルの裏庭で初老の男の死体が見つかったのは７月の暑い日だ。泊まっていた部屋からは遺書が見つかり、自殺の線が濃厚だった。 私は運悪く、旅行中その場に居合わせてしまった。黙っていたかったが、第一発見者が […]

“「あれは、世界的大富豪のヨットに乗せてもらって、マラッカ海峡を通ったときのことだ」 例によって、バーに私を呼び出した御堂筋は自慢話を始めた。 「今度はマラッカ海峡ですか。海賊にでも会いました？」 「そうなん […]

“「非常線を張れ！　強盗団は高速道路に逃げ込んだ！」 貴金属狙いの強盗団が、夜の高速道路に逃げ込んだ。その大胆な手口から、外国人の窃盗団だと思われた。 「日本の高速道路にはＮシステムという高度な監視システムが […]

“「死因は明白です。頭部の銃創。脳が一撃で破壊されました。銃創には焼け焦げのあとがあります。銃口を押しつけて発射した証拠です」 捜査会議で駒井検視官が言った。彼の上げた報告書にはもっと細かく所見が書かれている […]

“その死体は、血だまりの中に背広姿のまま、仰向けで倒れていた。血は、死体の背中の銃創から流れ出たものである。 大量の血が半分固まって、朝日にてらてら光っていた。 「ということは、背中から撃たれたと言うことか… […]

“テロの予告に、休日の街は戦々恐々としていた。もちろん、警察は厳重警戒態勢を敷き、交通要所や官庁街、繁華街などテロの標的になりそうな所を警備している。 もっともすべての警察官が緊張に張り詰めているわけではない […]

“事故現場は倉庫街の一角だった。 指名手配中の犯人の車が逃亡中、倉庫から尻を突きだしてきたトラックに衝突した。逃走中の犯人は即死。 いくら悪人でも、事故は事故だ。 追いかけていた警官たちによって、現場検証が始 […]

“「また捜し物かね、名探偵君？」 遠藤警部が、私を「名探偵」と呼ぶときは、だいたい皮肉を言いたいときである。今はきっと、めんどうくさいのに、警察の証拠保管庫に付き合わねばならないからだろう。 「ええ。２０年前 […]

“大丈夫。僕は上手くやっている。 床に転がった兄の死体を見ながら、僕は自分に言い聞かせた。 死んで４時間経つので血が乾きかかっている。殺したとき兄の血がついたので手を洗ったが、まだ気になる。僕はもう一度、洗面 […]

“トラブルメーカーと呼ばれる人間はどこにでもいるものである。本人に悪意があってもなくても、人とトラブルを起こす。 安田氏もそういったトラブルメーカーだった。そして、最後の最後に最大級の迷惑を振りまいた。ホテル […]

“「まったく、こんな連中を野放しにしておいては困りますね。警察は何をやっているんだと言いたい」 地面に仰向けに倒れている男を見下ろし、インテリふうの男はそう言った。 「はぁ……まあ」 荒井君は困り顔だ。もっと […]

“「はぁはぁはぁはぁ……」 俺は田舎のやぶの中を逃げていた。山を越え、ようやく人里に出たときには、汗だくになっていた。 そこで見つけたのは、キュウリ畑に囲まれた一軒の古そうな農家だった。俺は干してあった農作業 […]

“俺がクライアントから盗むよう依頼された研究情報は、研究所内の孤立したネットワークに保存されている。アクセスするには研究所内のコンピュータルームに潜り込まなくてはダメだ。 だが俺はニセの身分証で首尾よく潜り込 […]

“河本久志がイスラム教のモスクに立てこもってから、既に１６時間が過ぎようとしていた。人質はたまたまモスクに礼拝にいた敬虔なイスラム教徒４人。 現場では、河本との交渉が続けられていた。河本の要求は別れた妻と子供 […]

“「きゃああっ！　私のカバンが無いっ！！」 女性の声が月曜早朝のファーストフード店に響き渡り、店中の客がそちらを注目した。 私もちょうど薄くてまずいコーヒーに辟易していたところだったので、彼女に声をかけてみた […]

“小説家・八神大輔氏の書斎は豪華ではあったが、さほど広くはない。壁はほとんど本棚になっていたからだ。仮眠用のベッドと机に圧迫され、見える床は４畳半ほどもない。 その書斎の床の真ん中に、八神氏の死体があったあと […]

“ビルの非常階段の下で、大戸田商事の営業・岡本信二の死体が見つかったのは、午後５時のことだった。 「肝臓の温度からすると死亡推定時刻は３時から３時半頃ですね」 鑑識の大鳥さんが私たちに報告した。 「あと、遺体 […]

“ゲリラ豪雨が去って、夕方の明るい日差しが戻りかけた頃、警察に一本の電話が入った。 「大変です、妻が……妻が死んでいます！」 通報者は土居久彦。被害者土居亜紀子の夫だった。 亜紀子は居間のカーペットの上で、仰 […]

“「肝臓の温度から見て、死亡推定時間は約１０時間前、午後１時頃ですね」 駒井検視官が遠藤警部を振り返った。 「で……第一発見者は、甥の和通さん……ですね？　発見時の詳しい状況を教えてください」 遠藤警部が、和 […]

“まるでその部屋は、彼のためのステージのようだった。 彼の死体と左手首から流れ出た血の跡、手首を切るのに使ったと思われるカミソリ、そして遺書を除いて、部屋の床一杯に敷き詰められた真っ赤なカーペットの上には全く […]

“電話の奥で、男は言った。 「いや、待て。駅に子供の身代金を持ってくるのは女がいい。お前の家に、子供の家庭教師が居たな？　あの女に持たせろ。婦人警官を化けさせてもムダだぞ」 誘拐犯のこの言葉に、遠藤警部は歯ぎ […]

“地下からの物音に、最初に気が付いたのは殺人現場検証中の遠藤警部だった。 現場はフレンチレストラン。物音は地下のワインセラーからだった。３０分後、警官によって男が助け出された。この店のソムリエで経営者のひとり […]

“崖の下に打ち付けられた彼女の遺体は、波に洗われ、目を覆いたくなるほど悲惨なものだった。 「うっ、うっ、うっ、里香……」 その遺体が現場から運び出されるそばで、泣いているひとりの男がいた。死んだ女性の婚約者だ […]

“『現在七面』の楽屋で、十三代目佐々野三郎左衛門が死んでいるのが見つかったのは、その日最後の舞台が終わったあとだった。 三郎左衛門はイスにもたれかかるように死んでいた。足元には割れた湯飲み、そしてこぼれたお茶 […]

“短命の家系というのは、確かに存在する。たいていは単純に体質の問題だろう。だがオカルト的な理由を信じている人々もいる。友人の茅ヶ崎良武の場合もそうだった。 「父も、祖父も、曾祖父も大叔父もみんな４０代で死んだ […]