“都内にいくつものビルを持つ不動産王・白山氏の一人娘、朱音さんが都内の一等住宅街の自宅前で誘拐されたのは、年の暮れも押し詰まった頃のことである。定番の「警察には知らせるな」との言葉を白山氏は忠実に守り、探偵で […]

“半導体工場の副所長が殺された。深夜の工場で、機械に巻き込まれた状態で。 副所長の身辺を調べている最中に意外な事実が浮かんできた。副所長は工場の製品を横流ししていたのだ。 横流しは昨日今日のことではなく、十五 […]

“「うわっ、これはすごいですねぇ！」 「でしょう？」 荒井刑事の声に、榎木英明は自慢そうに答えた。誰でも自分のコレクションを誉められたら嬉しい。榎木の趣味はクラシックカーで、ガレージに７台もの年代物のクラシッ […]

“東京・上野駅のトイレで、男性の死体が見つかった。男性は室山茂、会社員。直前に駅のホームで別の男性と揉めている姿を見たという目撃証言があり、その場所には名刺が落ちていた。名刺から、３人の男性が絞られた。が、そ […]

“佐原敬吾が自慢の真っ赤なオープンカーの中で死んでいるのが発見されたのは、午後４時のことであった。 車は野外の駐車場とは名ばかりの、空き地に放置されていた。死亡推定時刻は午後１時頃。つまり３時間も、気が付かれ […]

“「本当なんだ。信じてくれ。暴発だったんだ。事故だったんだよ」 被害者沢辺琴美の夫、沢辺輝和は泣きそうな顔で言った。 「輝和さん、あなたは浮気の件で琴美さんとケンカをしていましたよね？　自宅のマンション近くで […]

“外町大悟の趣味は海底に沈む宝探しだった。宝といっても、単に金銭的な意味ではない。自身の記念となるような骨董品だった。そのお宝に囲まれて死ねたのだから外町大悟は幸せだと言えないことはない。 外町のヨットが海岸 […]

“「いやあ、世界中を飛び回る私としては、とても忙しくてねえ」 御堂筋はバーのカウンターで、言った。 「本当に忙しいんですか、御堂筋君？　なんだか、日本に帰ってくるたびに、私に会いに来ていませんか？」 「この間 […]

“事件は深夜起こった。 深夜、集団で道交法に違反するような走行をしていた集団……いわゆる暴走族の少年のひとりが、車から落ちて、路面に叩き付けられ、死亡したのである。 問題は、この事故が被害者の自己責任になるの […]

“「見てください。こんなものを倉から見つけたんですよ」 町内会長の関口さんが私の事務所に、細長い堤を持って訪れてきた。顔にはニコニコと満面の笑みを浮かべている。 私は、イヤな予感しかしなかった。 果たして、関 […]

“降り続いた雪がやんで、朝日が眩しい。足元にはまだ融けていない雪が一面に積もっている。 「この新雪の上に足跡つけるのって、なんかドキドキしますよね。楽しみのような、やっちゃいけないことしているような」 荒井刑 […]

“奇術師のウィザード小林が殺された。自分の持ちネタである脱出マジック用小道具の、鍵のかかった棺桶の中で。舞台が始まる直前になっても彼が現れないので、捜しに行ったホテル側の従業員が発見したのだ。 「この、ウィザ […]

“死体は、崖の下に雪に半分埋もれた状態で見つかった。気温も丸一日以上氷点下だったので、ほぼ冷凍状態だった。 死因は首の骨折だが、他にも大小たくさんの骨折があった。これらはほぼ雪の斜面を転げ落ちたことによる傷と […]

“有名な木像彫刻家の酒庭正治が死んだ。 問題はそれが事故死か殺人か、判らないことにあった。 通常、作家が死ぬとその作品は値上がりする。つまり、彼のまだ売っていない作本を持つ家族はもちろん、彼の作品を持つすべて […]

“暖かい豪華な応接室に私は通されていた。外の冬の寒さもここには届かない。観葉植物の鉢が置かれ、隅には水槽もある。水槽の中では、ガラス細工のような熱帯魚が泳いでいた。 「実は、お願いしたい仕事というのは……我が […]

“ビルの屋上、貯水槽の上の死体が死後１週間程度で発見されたのは、全くの偶然だった。もしイタズラ好きの小学生がビルの屋上に登らなかったら、年末の屋上掃除の時まで見つからなかっただろう。 死体は腐乱しかけていたが […]

“私は頭脳派で、こうやってなにか自分でするのは苦手なのだが……。 辺りを見回しながら、私は部屋にそっと忍び込む。 そこは、ある企業の応接室だった。 その企業は暴力団まがいの経営をしており、色々な人たちを泣かせ […]

“「ないっ！　ない、ない！　ワシの『汗を拭く女』がないっ！！」 のどかな海辺の町の別荘で、小田原氏が大声を上げていた。 小田原氏は引退した実業家で、今は稀少切手収集家としてその筋では有名だ……ただし、悪名だが […]

“現場検証の最中に、荒井刑事はネクタイを緩めながら、言った。 「今年一番の冷え込みだというのに……警部、暑くないですか、この部屋？」 「荒井君、君が着込みすぎなんだろう」 「あっ。暖房設定２４度になっています […]

“「なににこにこしているんですか、荒井君？」 私は控え目な表現で、荒井刑事に聞いた。正直に言うと、にこにこどころではなく、ドロドロのにやけ顔だったのだ。 「よくぞ、聞いてくれました」 しゃべりたくてたまらなか […]

“「君か！　私の悪評を流して、営業妨害しているエセ探偵というのは！」 私の事務所に入って来た男は、いきなり怒鳴った。 記憶にない顔だったのできょとんとしていると、すぐにあとから顔見知りのＴＶ局プロデューサー、 […]

“ヨットは貴族の遊びだ。 それはもちろん、ヨットが高価だと言うこともあるが、天候任せで、良い風の日を待たなくてはならない、ということもある。金とヒマが無いと楽しめない。 とはいえ、ヨットの魅力にいったん取り付 […]

“『それは、あなたの知らない、この世の恐怖……』 こけおどし的なＢＧＭのあと、画面は夜の道路に変わる。どうやらドライブレコーダーの記録映像らしい。画面手前から、ヘッドライトが道を照らしている。 道自体は立派な […]

“「ベトナムでの話なんだが」 いつものバーで、御堂筋はそう話を切り出した。 「今度はベトナムですか。本当にいろんな国に行きますねえ、あなたは」 私は半分呆れながら、そう受け流した。 「ふっ、それは私がそれだけ […]

“晩秋から冬にかけて、野山に入るのには注意がいる。狩猟シーズンだからだ。もちろん山道など人が通りそうな場所の近くでの猟銃の発砲は禁止されている。 それでも不幸な事故というのは起こりえるのだ。 「うっううう…… […]

“殺人現場として、警察に封鎖されたホテルの部屋の前の廊下。そこで、ひとりの外国人女性がヒステリックにわめき立てている。 「なんて言っているんだね？　探偵さん？」 ヒソヒソと遠藤警部が私に聞いた。 「ドイツ語で […]

“「くっくっくっ、もうなにもかもが遅いぜ」 取り押さえられ、手錠で拘束されたテロリストは、勝ち誇った顔で言った。 「なに？」 「もう爆弾は仕掛けた。あとは爆発するのを待つばかりだ。くっくっくっ……」 「クソ… […]

“小さな池の淵で、死体が見つかった。死体は腐乱が激しく、そのままでは顔の形もわからない有様だった。 「死後４日から６日というところですかね。傷みが激しいのは水中に漬かっていたのもあります。めだった外傷は特にあ […]

“Ｊ市の銀行が襲われた。強盗犯は隣のＫ市の郊外で車を乗り捨て、姿を眩ませた。もちろん、車は盗難車だった。二日ほど前、Ｌ市で盗難届が出されていた。 「やり方が、手慣れた感じですね」 私の意見に石動警部は頷いた。 […]

“その街は北を山に囲まれた湖の南岸にあり、風光明媚な上に涼しいことから、避暑地として有名だった。その街のホテルの６０１号室で、山県美羽が殺されていた。死因は頭部に鈍器の一撃で、部屋が荒らされていないことから、 […]